山に籠って16年。
最初は現世から離れて穏やかに過ごしておりましたが、だんだん都市開発が進み、山にも人間の手が忍び寄ってきました。
だんだんと住むところがなくなり、山に籠りにくくなってきました。
山なんてなくていい、人間が迷い込んで憐れな姿になっている。早く帰っておいでというスピーカーの声が聞こえる。
甘い誘惑である。
太古からあった自然を破壊し、自分たちの都合のいいように何事も解釈して、持続不可能な社会を築こうとしている。
しかし、山の中は孤独である。人間は少なく、活気がないのだ。
山の外は人が多く、魅力的な文明がたくさんある。
そちらの方が幸せそうに見えるのだ。
山の中の人は気難しいことばかり、絵空事ばかり、無気力で、無力な人ばかりに見えた。
ここにこれ以上いたら、取り返しがつかないことになる。
私はこのような先輩になりたくない。
そんな思いが下山の大きな理由となった。
人間は山の中にでも、下界にも両方住まないといけないと思う。
私は山を行き来しながら、山と大地を調和させる役割を担っていきたい。